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「虹」第14号

カテゴリ:機関紙『虹』

虹14号

  • 夏に -二人のチェリストを思う-[理事長 河原克美]
  • シリーズ 失語症について(4)[言語聴覚士 高橋育子]
  • 誌上セミナー 高齢者の住まい(1)[専務理事 小松徹人]
  • 〈その他〉夏場の上手な水分補給・七夕のお願い・運営懇談会より

夏に -二人のチェリストを思う-

  アカシアの花が咲いて夏が来た。1990年、20世紀を代表する指揮者であり平和主義者としても知られている故レナード・バーンスタインの提唱により創設され毎年1ヶ月間にわたり開催される国際教育音楽祭『P・M・F(パシフィック・ミュージック・フェスティバル)』が今年は7月3日、札幌の芸術の森で開幕し、ウィーン・フィルの首席奏者をはじめ世界を代表する音楽家を教授陣に迎え、世界各地からオーディションにより選抜された若手音楽家を育成する1ヶ月のプログラムがあり、今年は48の演奏会が札幌を中心に開催される。前号の『虹』に書いたように、今、戦禍に見舞われず平和であるからこそ文化は花を開き、また花を育てそれを鑑賞することができるのだとしみじみ思う。

  平和を希求した音楽家、と言えばまずパブロ・カザルス(1876~1973)を思う。チェリストとして別格で巨匠を超えて「チェロの神様」とさえ言われている。フランコ軍事政権から「カザルスを捕らえたら両腕を肘から切り落とす」とまで言われながら祖国を守る資金集めのコンサートを続け、軍事政権にスペインが圧殺されると祖国との国境に近いフランスの小村プラードに亡命、1975年にフランコ政権が崩壊した後も反核・平和を自らの演奏活動を通じて貫き、祖国に戻ることなく生涯を終えた。「1971年の国連デーの演奏会―94才のカザルスはチェロを片手に立ち上がった。”私の故郷カタロニアでは、鳥さえもピース、ピース、ピースと鳴くのです“」(『カザルスの生涯と芸術』井上頼豊)と言い終えてカタロニア地方の民謡「鳥の歌」を演奏したと伝えられている。

  そして日本のチェリスト、井上頼豊(1912~1996)。「斉藤秀雄、プリングスハイム、ローゼンストックらに学ぶ。1934~43新交響楽団奏者。第2次大戦後は東京フィルを経て桐朋学園教授として多くの俊英を育てた。現代日本、旧ソ連音楽の初演のほか著書も多い」(『新版音楽事典』音楽之友社)とあるが、付け加えれば独奏はもとより室内楽をよくし、チャイコフスキー・コンクール審査員を三度務め、合唱指導、平和運動にたずさわった。

  1961年、カザルスの公開レッスンで50才になろうとする日本を代表するこのチェリストはカザルスの指導を受けた。弟子の伊丹桂子は『巨匠の素顔の中に「カザルスの指摘がすぐできるとカザルスの顔はこれは本物だ、という表情に変わったことが客席からもうかがえ私も感動しました」と書いている。その情景を想像すると何故かルイ・アラゴンの詩「ストラスブール大学の歌」の中のフレーズ「教えるとは希望を語ること、学ぶとは誠実を胸に刻むこと」が胸のうちに拡がって来る。

  生活協同組合のスローガン「よりよい生活と平和のために」―よりよい生活は平和という土壌の上にのみ成り立つということである。当り前のことをいっているわけだが黙っていると戦争への道へ向かって行く。哲学者エマヌエル・カントは『永遠平和のために』(1795刊)に「永遠平和は空虚な理念ではなく、われわれに課せられた使命である」と書いている。国政選挙も近い。平和を守る人たちが大勢選出されることを願っている。

(文)理事長 河原克美