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「虹」第11号

カテゴリ:機関紙『虹』

虹11号

  • 秋から冬へ移ろう時季に -ウイルタ語とアイヌ語から-[理事長 河原克美]
  • シリーズ 失語症について(1)[言語聴覚士 高橋育子]
  • 開設の時期を振り返って思う[イリス北8条施設長 乾剛師]

秋から冬へ移ろう時季に -ウイルタ語とアイヌ語から-

  季節は晩秋である。今年の9月は残暑が続いて雨が少なく、札幌の降水量は観測史上最低記録を更新し10月もしばらく暖かい秋であったが27日に寒気が来て手稲山に初冠雪を見て、11月4日には札幌に初雪が舞った。今までずいぶん「例年になく」と言い訳のついた書き出しで異常気象の様相を書いて来たが、米国で発生したサブプライムローン問題に端を発した人為的異常現象が連日のように報じられている折、「消滅の危機にさらされているロシア・サハリン州の先住民族ウイルタの言語を守ろうと池上二良北大名譽教授(87)が編集した『ウイルタ語を話しましよう』がユジノサハリンスクで出版された」との記事が4月14日の『北海道新聞』に掲載された。そして「文字のないウイルタ語を表記するためロシア文字を用い簡単な文章を絵を見ながら勉強できる教科書である」とあった。

  池上先生は“イリスもとまち”にご入居されておいでなのでこの本を拝見させていただいたが、ロシア語を表記するキリル文字で当然ながら著者である先生の名も印刷されていて楽しげな出来映えの本であった。記事には「ウイルタ民族は北サハリンを中心に約350人。大半はロシア語を話し、ウイルタ語を話せるのは今や16人」と池上先生の後継者である津曲教授の談話が付記されている。

  日本の先住民族の言語、文字を持たないアイヌ語は当のアイヌ民族と心ある“和人”によってユーカラの伝承、宗教行事や生活文化と共に保存の努力が続いている。

  1922年(大正11年)19才の若さで逝去したアイヌ民族の才媛知里幸恵さんはユーカラのローマ字による記録と日本語訳に励み、1961年に現職の北大教授で亡くなられた6才年下の弟知里真志保先生(言語学・アイヌ語アイヌ文学)は「カタカナ」と「ひらがな」のそれぞれ大小2種類の文字を用いてアイヌ語を表記した。

  「其の昔此の広い北海道は、私たちの先祖の自由の天地でありました。天真爛漫な稚児の様に、美しい大自然に抱擁されて、のんびりと楽しく生活していた彼等は、真に自然の寵児、何という幸福な人たちであったでせう」(知里幸恵『アイヌ神謡集』序の書き出し)。

  6月6日、衆参両院は「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」をそれぞれの本会議において全会一致で可決した。去年9月16日、国連総会での「先住民族の権利に関する国連宣言」が採択されていたが、今年7月の“洞爺湖サミット”を控えての国会の決議であった。「国連宣言はその前文で先住民が植民地化により土地や資源を奪われるなど“歴史的不正義”で苦しめられてきたとし、民族の発展に不可欠な集団としての権利を有すると強調」(前出『北海道新聞』)している。

  ウイルタ語をウイルタ族の中に取り戻そうとするのもウイルタ語が失われて行く原因があったからであり国連宣言に照して考えるとアイヌ民族と同質の原因を推測することができよう。知里幸恵さんの美しい日本語で書かれた『アイヌ神謡集』序文は、民族が虐げられ、いわれない差別に苦しめられて来た歴史的事実に対する痛烈な抗議であると認めなければなるまい。

  差別ということばはサンスクリット語からの仏教語で、万物一切の本性は平等であるが現象世界のすべてが別々な多様のものとして存在していること(『仏教辞典』岩波書店)であって、『日葡辞典』(1603)にXabet・シヤベツ―別ち、別つ=相違、区別とあり、「差別する」という動詞は階級社会を予想していう場合が多い、と『仏教語辞典』(宮坂宥勝)は説明している。

  現実社会の差別は、税率の調整による法人税大優遇、働く貧困層の増大、貧困の世襲化、後期高齢者医療制度に至っては75才以上の高齢者の生命を軽んずる差別、3年後に税率を上げるという富の再分配の一層の後退つまり低所得者の税負担率の増と、枚挙に暇がない。教育の機会均等を含め、あらゆる均等はどんどんと崩れて行く。ウイルタ語とアイヌ語を通じて考えさせられた初雪の日の思いである。

冬めくや 木立すかして 陽のにおい (愚作を一句)

(文)理事長 河原克美