HOME  »  福祉生協イリスからのご案内  »  機関紙『虹』  »  「虹」第4号

「虹」第4号

カテゴリ:機関紙『虹』

虹4号

  • 夏至から盛夏へ -うば捨て山を造ってはいけない-[理事長 河原克美]
  • 第1回通常総会の報告
  • 寄稿「沙漠のイリスの思い出」[高畑滋]

夏至から盛夏へ -うば捨て山を造ってはいけない-

  この原稿を書き始めていた或る日、豊平区在住の組合員・高畑滋さんから本紙に原稿が寄せられて早速本号に掲載させていただいた。題して「沙漠のイリスの思い出」とあって「イリスもとまち」に名付けたイリスについて、この小さな花をめぐるシリア砂漠でのご自身の体験を花にも人にも自然にも優しさいっぱいに伝わって来るあたたかいエッセイである。シリア砂漠は5月になると過酷な夏将軍のお出ましとか。札幌はこれからが爽やかな本格的な夏で、切稿は夏至が書き出しとなった。

  夏至というのは太陽が天球上で夏至点に達した瞬間で、この瞬間を含む日が夏至の日であり『理科年表』06版を見ると今年は中央標準時で6月21日21時26分が夏至の瞬間ということになっている。そして6月21日という日が一年中で昼が最も長く夜が最も短い日、つまり夏至の日である。同じ『理科年表』にこの日の数値は掲載されていないが前日の6月20日の各地の日出・日入があるので拾ってみると札幌、日出03:55/日入19:17で昼間が15時間22分。横浜、日出04:26/日入19:00で昼間が14時間34分。福岡、日出05:08/日入19:31で昼間が14時間23分。那覇、日出05:37/日入19:24で昼間が13時間47分。ざっと見ると札幌は九州や沖縄より昼間が1時間以上長いことがわかる。

  「薄明」は太陽が沈んでもしばらくの間天空も地上も明るさを保っている現象で、日の出前も同様の現象があり共に薄明であるが、薄明かりの中に人を見たときになぞらえて、明け方なら「彼は誰」、日暮れなら「誰そ彼」と表現するようにした先人のことばあそびの巧みさは恐れ入るばかりである。農業気象学の研究者で俳人であった佐々木丁冬(季雄)さんの『蝦夷歳時記』によれば北緯43℃の夏至の日の薄明時間は2時間19分となっているので札幌あたりでは24時間のうち18時間近くが明るく、真夜時間は6時間強ということになる。長く厳しい冬から春を送っての夏はこのあたりから始まるのが生活していての季節感であり、8月も10日を過ぎると秋風が肌に触れていくわけで、北国に暮らす人たちにとって、夏は歓びの季節となっている。

  5月下旬は「ライラック祭」で昭和35年に市民投票で「札幌の樹」に選ばれたライラック。今では札幌を象徴する花として親しまれ、6月に引き継いで盛夏を迎える直前までパステル調に白から赤紫の花を開き甘美な香りを漂わせてくれる。もとはといえば外来種で北海道には明治の中期に入って来たものだという。フランス名は「リラ」たとえ白い花を咲かせても和名は「ムラサキ・ハシドイ」というモクセイ科の植物だが同じモクセイ科に日本産ライラックとも言えるただの「ハシドイ」という在来種があり山野に自生してきたものである。

  知里真志保先生の『分類アイヌ語辞典・植物篇』で「ハジドイ」の項を見ると「この木は火にくべるとパチパチはねるので pus-ni (はねる・木)という」「沙流地方では itak-ruy-kur (おしゃべりする神) itakiruy-mat (おしゃべりする婦人)と呼ぶ。やはりこれを火にくべればパチパチと勢いよく燃えるからである」と書かれているが、明治の開拓者たちは火が跳ねて敷物や衣服に焼穴をつくるので「ドスナラ」とひどい名で呼ぶようになったといわれるが、おしゃべりにもひどいのがあるから悪癖のある人間のせいでハシドイもひどい目に合って来たわけである。

  「言葉のいらぬ世界が仏の世界、言葉の必要なのが人間界、言葉の通用しない世界が地獄」と仏教界でいわれるが、国政レベルでは教育基本法改正提案の真意が説明されないのも、福祉財源を主張しながら国民から徴収して来た消費税が法人税の減収でそのほとんどが費やされて来た事実について政府もマス・コミも真面目に説明しないのも人間界ではなく地獄ではないか。「核兵器がある」といって戦争を仕掛けたアメリカの指導者の例は偽りの言葉を用いて言いくるめた今では有名な話であるが、条理を尽くして反論しても理解できないとか、理解しようとしないのは間違いなく言葉の通用しない世界である。今までの老人保険制度を廃止して後期高齢者医療制度を新設するという「改革」は、受け皿のないまま病院の療養病床を削減・廃止する内容も含まれていて政治による「うば捨て山」造りになるのではないかと胸が痛む。

  北国の夏の歓びは自然が与える季節の巡り合わせに、人びとの中にある安らぎを求める心が共鳴するからであるが、現実の高齢者をめぐる政治情勢を考えると安閑としていられない気持ちに駆られる。それでも「イリスもとまち」づくりに励みながら短い夏を楽しみたいと思っている。

ライラック 咲いて火を入れ 夏になり (愚作を一句)

(文)理事長 河原克美